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俺には、3才下の妹がいた。

華奢で、自分の妹ではないのではと思うほど美しく透明感をもつ妹だった。もし、他人であれば全く手の届かないような・・・

妹は聴覚が弱かった。そのせいで、同学年の子たちからいじめられることが多かった。

わがままに育てられた俺は、無理にでも事をなす強引な存在だった。けんかに負けたことはなかったし、勉強も誰よりできた。

そんな俺は、妹を守り続けた。「お兄ちゃん」って涙ぐむ妹に、餓鬼どものちょっとした悪戯さえ許さなかった。

一方で、毎日の嫌気の中、何度も泣きつきたくなった妹。

いつも、「なあに?」って、微笑んでくれた。

俺は、妹を守り続けた。

しかし、かけがえのない妹は死んだ。小児がん、脳腫瘍だった。

一人残された俺。今こうした最悪の状況の中で、もしお前がいたら何て答えてくれる?

それとも、何も言わないまま、また笑顔一つで、俺を窮地から救い出してしまうの?

俺は、間抜けにも未だ生き続けている。

けど、純粋な気持ちで、俺はこの妹を守るためなら死ねると思っていた。いや、この妹と一緒に死ぬことが俺の人生の意味なのかもしれないと思っていたんだ。

しかし、妹はそれを許してくれなかった。

俺は、最期のぬくもりを放つ妹を精一杯抱きしめた。

病魔という冷たく激しい雨から守ろうと、細い息、細い身体の妹を、闇明けるまで抱き続けた。

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