彼女が「小さい頃、習っただけだよ」といってピアノの前に立った
「好きな曲は?」って言うから、「エリーゼのために」って答えた
彼女が弾き始めた 最初は感心して聴いていた
ただ、曲が進むにつれ、感情を抑えられなくなった
曲のブリッジに入った瞬間、俺は彼女の両手を押さえ止めた
彼女とその曲を同時に受け入れることはできなかった
彼女が「小さい頃、習っただけだよ」といってピアノの前に立った
「好きな曲は?」って言うから、「エリーゼのために」って答えた
彼女が弾き始めた 最初は感心して聴いていた
ただ、曲が進むにつれ、感情を抑えられなくなった
曲のブリッジに入った瞬間、俺は彼女の両手を押さえ止めた
彼女とその曲を同時に受け入れることはできなかった
彼女と、電車で旅行に行った
午前0時27分、そのままスピードを落とさずに交差点を左折する
幹線から橋へつながる街並木通りに出た
すると、車を止めて自動販売機に向かう人がいた
そうだ、動き出すんだ 夜よ 街よ
動け
動き出すんだ
何もかもが嘘だ、偽りだ
俺がしゃべっているのは台詞であって、本当に自分がそう思って言っていることなんてありはしない
無理矢理言わされ、効果ばかりを考えているから、全く効果なんてない
俺は、ヒロインを愛し続ける健気なヒーローでは決してない
演技をするつもりなんて本当は全くないのだ
キャラクターを演じるのはまっぴらごめん
なんだか疲れてきた
車の助手席に乗った彼女がカーディガンを脱いだ瞬間
その下のブラウスの白さに
今年最初の春を感じる
今、自分は彼女を送るために車を運転している
道の脇に、一人、遠くに打ち上げられている花火を眺めるおばあさんを見た
両手を後ろに回し、少しだけ顔を上げ、空を見つめていた
きっと、そのきれいな花火を楽しんでいるに違いない
ただ、そのきれいな花火を、その楽しみを、一体誰に伝えることができるのだろう
一瞬の輝きの後で、暗黒の夜の空に消えていく花火の輝きを・・・
花火そのものの美しさではなく、それをイベントとして利用した効果ばかりを考えている、功利的な考えしかできない俺にとって、その光景は心に痛すぎた
「好き」という気持ちを作り上げるのは、相手の性格、価値観、ルックス、二人の過程、環境などがあると思う もちろん、人によって重要なもの、それほどでもないものがあると思うけど
条件がすべて叶うなら最高だけど、現実はそうもいかない 確かに、条件のうちのどれかが全く欠けてしまっていては、好きになることはないだろう
しかし、性格の一部分、価値観の一部分、ルックスの一部分・・・が欠けているからといって、自分の正直な気持ちを踏みにじろうとするのは愚かだ
人にははっきりと意識できることとできないことがある しかし、はっきり意識できることが大切とは限らない いろいろな要素が合わさって、はじめて気持ちができる 人間には計り知れないし気づくこともできないことがある
直面する目に見えることだけで判断してはいけない 過程などにおいては、特に不満を満足に変えたいと思うだろう しかし、相手ができる限りのことをしているのなら、不満と思うべきではない
結局、大切なのは、100%になることがない条件ではなく、120%になり得るその気持ちなのだから
女医が言った
「あなた万年鬱じゃないの?」
名医だ
すべてがスローなテンポで流れていく
車窓の景色も、そして、その中にいる人たちも
駅に向かって走っている人ですら、それに飲み込まれてしまう
かげろう、口紅のCM、東風・・・
確かに俺にも春が来た
一秒間に映し出される彼女に彩られた世界は、それまで何もなかったかのように、すさんだ心を包み込んでしまう
そして、そのとき俺が見たものは・・・
ワンフレーズから広がっていく言葉たちの世界は、疲れ切った自分に、ほのかな夢と希望を与えてくれる
そして、最後に俺のとった手段は・・・